真珠腫性中耳炎や
慢性中耳疾患に対する鼓室形成術
呼中耳構築が崩れる真珠腫性中耳炎などの慢性中耳疾患では、耳漏、聴力障害、めまい等を生じます。
鼓室形成術は、健全な中耳形態を再構築することで問題の解決を計る手術です。
- 監 修
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JR札幌病院 顧問
耳鼻咽喉科 染川 幸裕先生
JR札幌病院が取り組む「鼓室形成術」
耳の構造と音の伝わり方
耳は、外側から外耳、中耳、内耳に分けられます。鼓膜の奥に中耳という空間(中耳腔)があり、そこに鼓膜の振動を内耳に伝える3つの骨(耳小骨)が吊り下げられています。また、中耳の奥の骨の中には、内耳と呼ばれる図のような形のトンネル構造があります。このトンネルは内耳液で満たされ、その中に「聞こえ」や「バランス」の感覚細胞が配列しています。
鼓膜がとらえた音の振動は、耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)がテコの原理で振動エネルギーを増幅させて、アブミ骨が付いている内耳の窓(前庭窓:ぜんていそう)から内耳に伝達されます。この振動を内耳の感覚細胞が感知し、電気信号として脳に送り音を認識します。また、内耳に入った振動エネルギーは別の窓(蝸牛窓:かぎゅうそう)から中耳腔に放出されます。
中耳は鼓膜によって外耳と隔てられているため、外耳から中耳への空気の入れ換えはできません。中耳への空気は、鼻の奥(鼻咽腔)から耳管を通じて入ります。さらに、入った空気は鼓膜の裏から耳小骨の周りのスペースを通って中耳の奥深くまで換気されています。
しかし、①耳管から鼻の奥にある細菌も一緒に入ってしまうと急性中耳炎を発症したり、②耳管から中耳の奥隅々までの換気が損なわれると、中耳に水がたまる滲出性中耳炎や、鼓膜が中耳腔奥の壁(鼓室壁)に癒着してしまう癒着性中耳炎、鼓膜や外耳道の皮膚が耳小骨の裏や中耳の奥深くに吸い込まれる真珠腫性中耳炎など、さまざまな問題を生じることになります。
鼓室形成術の対象となる中耳疾患と術後経過
当科における鼓室形成術の基本姿勢
- 壊れた中耳腔を再構築して維持することで、中耳炎の慢性炎症を治す。さらに内耳障害を併発する危険性も解消する。
- その上で、音が伝わる機構を再構築し、伝音聴力を改善させる。
- 上記①②の状態を生涯維持する。
穿孔性中耳炎
症例3: 68歳(右耳) 伝音再建 Ⅱ
真珠腫性中耳炎
症例2:弛緩部・緊張部複合型 左耳 36歳 伝音再建Ⅲc
中耳炎性術後症
症例5:30歳、右耳 伝音再建法Ⅲc
鼓室形成術に関する留意点
- 抜糸後は、1日1回、毎日処置する時間さえとっていただければ、必ずしも入院の必要はなく外来治療でも可能です。
- しかし、この時期は術後の耳をきれいに仕上げる大切な期間であるため、毎日の処置が必要です。
形成した中耳に血流が再生して、ほぼ乾燥化する10日間前後を原則入院期間にしています。 - 朝に耳処置を受けてから職場や学校に行き病院に戻ってきてもらうことは可能です。
- 小さいお子さんがいる患者さんであれば、術後3日目のドレーン抜去後は、お子さんの面倒を見るための外出外泊は可能です。
- 遠方などで外来通院に支障がある方は、術後処置が必要なくなってから退院していただくこともあります。
- 退院後は、週2~3回程度の間隔で外来処置を行い、術後ほぼ3週間で仕上がります。
このため、患者さんには、できるだけ余裕のある日程を調整し、その中で手術を受けていただきたいと願っています。
また、特に真珠腫性中耳炎の場合は、再発などの問題もありますので、術後の経過観察が重要となります。忙しいとは思いますが、術後の定期的な受診にも都合をつけていただきたいと願っています。